藤原健介ほどテクニカルかつ情熱的な選手を知らない。うまいのに熱さも伝わる。それが悪い方に出てしまいイエローカードを提示されることもあれば、相手からレッドカードを引き出す光景も何度か見てきた。
　「それがサッカー。結果を出した者が上にいく。プロは甘い世界ではないので」
　今年４月に加入して以来、21歳という年齢にも関わらず、ずっと支配的で、中心的だ。背後を陥れる高精度のスルーパスで魅せれば、その感情の揺れをピッチ上で表現する姿も耳目を集めてきた。勝てない頃にはサポーターから厳しい声も受け止めたが、矢面に立つように「それでも応援してほしい」と訴えたこともあった。
　「本当に苦しい時も彼らは遠いところまで応援に来てくれたし、その気持ちは選手たちに確実に届いています。遅いけれど、ちょっとずつ彼らの期待に応えられるようになってきたし、でも、まだまだ」
　チームが混沌としていた頃の前期最終戦、アウェイ鹿児島戦も印象深い。敵地で昇格を争うライバルに０対１で惨敗すると「最低なゲームだった」「どれだけの選手が本気で戦えていたのか」と言葉を選ぶことなく吐き捨てた。その上で「後期戦の残り19試合は全部勝つつもりで戦います」と公言し、それを有言実行してきたからこそ今がある。ただのテクニカルな選手に留まらない、同時に、内側にある強さを全面に押し出し、チームに影響を与えられる稀有な存在。
　「ピッチ上では全員が闘志を剝き出しにしてやらないといけないし、試合に出られない選手がいる以上、試合に出る選手は彼らの分まで責任を持ってやらないといけない。そういう泥臭い姿勢がファン・サポーターの心に響くものだと自分は思っているので」
　プロとしての基準は遥か高いところに置いてきた。だからJ3では圧倒的な存在として貢献しなくては――その変わらぬ思いがある。
　「去年は北九州を昇格させられずに悔しい思いをしたし、自分の価値を示せなかった。だから今年こそは栃木SCで昇格を掴み取って自分の価値を示したいんです。自分はジュビロもギラヴァンツも栃木SCも全部好きです。自分が所属している以上はそのチームを全部勝たせたい。熱源ですか？　自分は超が付くほどの負けず嫌いなのでね」
　前節の松本山雅戦を引き分けたチームは負けなし記録を「８」に伸ばし、ホームに戻ってきた。今節の相手は藤原にとっての古巣、ギラヴァンツ北九州。思い入れのあるチームを倒さなければいけない。
　「前回のアウェイ戦は正直『やりたくない』という感情もあったのですが、いざ対戦してドローで終わると、めちゃくちゃ悔しくて……。その夜はかつてないほどに落ち込みました。あんな思いはもうしたくないし、絶対に勝ちたい。勝ってギラヴァンツのサポーターや関係者に自分が成長した姿を見せたい。色々な感情があるけれど、冷静に熱く戦って、勝ちますよ。僕らももう勝つしかないので」
　藤原がまたテクニカルかつ情熱的な振る舞いで牽引していく。
　
（文・鈴木康浩）