試合当日。スタジアムに入るとロッカールームに準備されている背番号『8』が目に飛び込んでくる。去年味わった様々な感情がこみ上げ、俺は栃木のために戦うんだ――今季を戦うときに握り締めた決意に立ち返れる瞬間だ。
　昨季はプレシーズンに負ったケガで長期離脱し、1年の大半を棒に振った。36節清水エスパルス戦で復帰にこぎ着けたが、その試合でチームのJ3降格が決まった。試合終了の瞬間、自身はベンチにいたが、普段からクールに接してくれたコーチングスタッフたちが目を真っ赤に染める姿が今でも脳裏に焼き付いている。
　「降格したことは悔しいし、納得がいかないんです。チームとして、個人として、他のみんなもそうだと思いますが、本来ならばJ2の上へどんどんチャレンジしていくという意思を持ちながら下に落ちてしまった。だから今季、僕らが上にチャレンジできるレベルにあることをしっかりと示したいんです」
　チーム在籍は4年目になり、栃木SCへの思いは積み重なっている。クラブから背番号『8』を打診され、素直に嬉しかった。特別な番号だと理解しているし、だからこそ自分が背負って戦いたかった。栃木SCの『8』に意味づけしたレジェンド、廣瀬浩二氏には今年、会うなり手を握られる力が以前よりも増したと感じる。思いを託されているようで、身が引き締まる瞬間だ。
　「結果に拘り、栃木SCのために頑張る。そう強く思える番号だと感じるし、やってやるぞと。目に見えて応援してくれる人たちが増えているし、スタジアムで自分の背番号を見つけるたびにエネルギーが湧き上がってきます。本当にありがたいし、選手としてものすごく幸せな環境でサッカーをやらせてもらっていると思っています。だからこそ、もっとファン・サポーターにいい思いをさせてあげたい。今年はそういうものを取り戻していきたい」
　2試合前のFC大阪戦では88分の矢野貴章の決勝ゴールをアシストした。前節FC琉球戦では60分に今季初ゴールとなる同点ゴールを決めた。徐々に状態が上がってきているのは自分でもわかる。チームは勝ち負けが続いているが「この方向でいければ」というポテンシャルの高さも感じている。「内容も良くなっているだけに、これを結果に繋げることに拘っていかないと」。今節はこうした状況で勝ちが求められる栃木シティとのダービーマッチを迎える。栃木SCを応援してくれるすべての人たちの思いはわかっている。
　「これこそが”戦い”だと思っています。絶対に負けてはいけないし、絶対に勝たなければいけない。選手たちはもうわかっているし、ファン・サポーターやクラブの人たちも強い思いを抱いていると思う。このゲームは内容も大事だけど、とにかく勝つことが一番大事。みんなでやるべきことを表現し、試合に勝つ。絶対に結果を掴み取らなければいけないと思っています」
　すべての思いを背負って戦う準備はできている。周囲の思いが強いほど、福森健太は力を発揮する。『8』がダービーで輝く。 　

（文・鈴木康浩）