棚橋尭士には今でも刺激にしかならない同世代の仲間がいる。
　幼少期の夢はワールドカップに出場し、世界最高峰の舞台である欧州チャンピオンズリーグで得点を奪うことだった。横浜F・マリノスユースに所属していた頃、それは夢ではなく目標だった。Ｕ-17日本代表に選出され、久保建英や中村敬斗ら現在の日本代表を牽引する選手たちと凌ぎを削った。
　「結果を出さなければ生き残れない。強烈な環境だった」
　基準を引き上げられ、常に必死だった。Ｕ-17ワールドカップが終わり、高校３年生になった頃、仲間たちはＪリーグの舞台で活躍し始めたが、自分はユースから飛び級ができず焦りが募った。中学から高校にかけて着実に成長している実感はあった。だが、周りの成長スピードはさらに上をいった。活路を見出そうとマリノスの環境を出て、ポルトガルの地に飛び込んだが、思い描くようにはいかなかった。
　「マリノスにいた頃、自分はすごい仲間たちがいたから、お膳立てされてゴールを決められていたんだな、ということは思いました」
　一からやり直さなければ――そう焦がれた時期だ。日本に戻ってももう行き場はなかった。都内のグラウンドを間借りして自主練習に励んだ時期もある。そのとき、声を掛けてくれた人物がいた。国士舘大学の故・大澤英雄理事長だ。半世紀ほど前に国士舘大学に自らサッカー部を立ち上げ、素人集団を一から叩き上げて大学最強集団に押し上げた男は、常に棚橋に厳しくも愛情を注いでくれた。
　国士舘大学には全国から集まった屈強なFWたちがいた。棚橋はそれまで最前線でプレーすることに専念してきたが、今現在のように、1.5列目に降りてプレーするスタイルを習得したのはこの時期だった。ここで成長できなければ生き残れない――。危機感を身にまとい、新たな形をモノにしようと必死だった。
　毎日ひたすら１対１に励み、ひたすら走った。同じメニューを３６５日、徹底して繰り返した。苦しかろうが、理不尽があろうが、やり切った。そうやって国士舘のタフな男は出来上がる。棚橋も例に漏れず、変わった。お膳立てされてゴールを奪っていたFWが、自ら突破してゴールを決められるFWに変わった。涼しい顔をしてプレーしていたFWが、90分間フルタイムで走れて泥臭く戦えるFWに変わった。
　あの国士舘での時間がなければ今の自分はないし、自分を拾ってくれた故・大澤理事長には感謝しかない――棚橋は心の底からそう思っている。
　前節FC岐阜戦は１対０で勝ち切り、チームは４試合ぶりに勝利を手にした。だが、棚橋はチームとして２点目が奪えなかったことを重く受け止めていた。チャンスメイクだけではダメだ。最後は、やっぱり自分が決めたい。そんな思いを深めた一戦だった。
　「尭士、お前は１点を奪うのは当たり前だ。１点で満足するな」
　故・大澤理事長の言葉が胸の中にある。ゴールを決めるから前進できる。プロとして這い上がれる。棚橋がゴールへの執着を強めていく。 　

（文・鈴木康浩）