5月のリーグ戦は4戦2勝2分、すべて無失点で切り抜けたが、DFラインを統率する平松航に慢心はない。
　「相手のミスに助けられている側面があるし、むしろ『このままじゃマズいよな』と感じている選手がほとんどです」
　これが昨季まで戦っていたJ2ならば話が変わる、との認識があるからだ。クオリティのある外国籍選手に隙を与えれば、そのミスが命取りになる。昨季はそうした苦い経験を味わいながらJ3に降格してしまった。「基準を下げたくないんです」と平松は言った。
　「チームとして優勝・昇格を目指しているし、J3で積み上げたものがないとJ2に昇格してから太刀打ちできないので」
　今季はツエーゲン金沢の点取り屋、FWパトリックと対峙したときに緊張感を味わい、ああこの感触だ、と思い出すものがあった。その意味で、普段から栃木SCの様々なタイプのストライカーと対峙し、「練習のほうがよほどきつい」と思える環境に有難みも感じている。
　より高いレベルを目指そうと、最近の試合では、最終ラインの3バックにプラス1の守備者を置かなくとも、相手の3トップを同数で守れないかと思案を重ねる日々だ。それが可能になれば、リスクはあるが、チームとしてより攻撃に人数を割ける。得点が不足し、勝利を重ねられない現状がある。攻撃性が非常に高い藤原健介がチームに加入したことも転機だった。今必要なのは、彼の攻撃性を損なわない、ハイレベルで攻撃的な守備だ。それをJ3にいるうちに構築する――平松はそんなビジョンを握り締めている。
　優勝・昇格を目指す以上、練習の雰囲気からもっと勝利に貪欲にならなければとの危機感もある。そのためには厳しい声を出し続けることも厭わない。少し前には川名連介と言い合いになったこともあるが、チームが前進するために”当たり前にあるべき衝突”との認識が二人にはあった。
　「ここで年齢を重ね、このチームが辿った流れをわかっている選手たちほど同じような思いを持っているし、その輪をもっと大きくしていかなければという危機感はあります」
　昨季は副キャプテンを任されたが、今季はその役を外された。序盤戦は出場機会も掴めず、悔しさだけを募らせていたが、あれこれ思いを巡らせて辿り着いたのは、自分がこのチームを先頭に立って引っ張るんだ、という決意だった。リーダーは何人いてもいい、多ければ多いほど良い組織になれる、との確信が平松を突き動かしていた。
　ダービー群馬戦を前に、平松の頭には勝利の二文字しかない。
　「複数得点を奪って連勝できればベストですが、1対0で勝ちを重ねている現状は、いい意味でも悪い意味でも栃木らしい。一番大事なことは勝つことです。それを頭に叩き込んでしっかりと戦います」
　ウノゼロで連勝を達成する――それが最低ラインだ。平松がそう導けるように堅守の手綱を握る。そこに慢心はない。初の連勝を掴むために細部に目を光らせ、ハードに献身する。
　

（文・鈴木康浩）