前節栃木シティ戦では加入後2試合目にして中央のセンターバックを任され、大きな存在感を示した。
　水戸に6年、徳島に7年半に在籍した32歳が豊富な経験を活かして最後方からチームを牽引。ときにセンターバックの声は”神の声”と言われるが、内田航平が周りに掛ける声によって徐々にチームの守備が引き締まっていった。
　「栃木SCの選手たちはみんな能力が高いので、正しいポジションを取って、正しいタイミングで守備ができれば安定感が出てくる。自分がどんどん後ろから伝えてあげようと意識していました」
　手応えは十分。ディフェンスリーダーとして栃木SCに8試合ぶりとなる無失点をもたらしたのみならず、32分には藤原健介の狙いすましたCKに頭で合わせて決勝ゴールを演出。それだけでは終わらない。試合後のロッカールームでは、誰よりも無邪気に喜びを爆発させながら勝利を分かち合うチームの中心にいた。若い選手たちが主体となってきたチームの中で32歳のベテランがすべてを持っていた日だった。
　「若い頃は場所もタイミングも関係なくふざけていたので年中怒られていたんです。でも年齢を重ねるなかで、隙を見ながらちょこちょことうまく盛り上げられるようになっていると思いますね(笑)」
　それは、真面目で愚直なチームカラーの中に貴重な”盛り上げ隊長”が入ってきたを意味する。若い選手たちをプレーや言動、そしてムードメーカーとして引っ張れる”お父さん”のような存在。
　直近の2シーズンは徳島で出場機会が激減し、プロとしての価値が徐々に下がっていく危機感を覚えていた。だから栃木SCに飛び込み、やり直し、チームの勝利に貢献し、自分の価値を引き上げようと思った。栃木SCのJ2昇格を自分のサッカーキャリアの最後の挑戦にしようと心に決めた。
　「栃木SCの練習はすごくきついけれど、やればやるほど身体が動くようになっているのがわかります。今は試合に出られていることが嬉しいし、楽しい。でも、まだまだここからですよ」
　ここからチームを熟成させていく。経験上、やるべきことはわかっている。 　「一番大事なのは、負けない力だと思っています。昇格を狙う以上は『なんだかんだ負けないよね』という感覚が大事。22年シーズンの徳島は若くてポテンシャルの高い選手ばかりでしたが、なかなか噛み合わず、前期戦が終わったときは下位でした。ただ、ほとんど負けなかったからこそ、最後は6位で昇格プレーオフに滑り込めたんです。負けると”全部がダメ”という感覚に陥り勝ちになりますが、でも粘りながら負けずに進めていくと、いざ勝てたときに”あの引き分けが効いているんだ”とノッていける。残り16試合は負けないことを大事にしながら浮上していければと思っています」
　その中心として最後方からチームを引き締めていく。内田航平の新たな挑戦が始まった。
　
（文・鈴木康浩）