今週の練習後、取材に応じた大森博は大粒の汗を流し、息をぜいぜいと切らしながら目の前に現れた。「めちゃくちゃきついし、でももっとやれる、もっとやらなければという思いもあるので」。日々の練習から120%を出し切る。その思いの強さが伝わってきた。
　「J3では圧倒的な存在にならないと」
　数週間前、大森が話していた。今季はここまで全27試合中、ケガや出場停止以外の25試合にスタメンフルタイム出場中。プロ5年目を迎えた大森にとってキャリアハイ到達は間違いなかった。ここで積み重ねる自信と、現状に満足するわけにはいかないという焦りが入り乱れているようだった。
　「後期戦に入る頃にベテランの選手らと色々と話す機会があったんです。『ここで圧倒的にならないと上には行けないよ』『もっとできるよ』と言ってもらえて。人間は試合に出続けることに慣れてしまうものだから、そのときにハッとしたし、だから今の自分のパフォーマンスには全然納得できていなくて――」
　大森はそのポテンシャルの高さを高校時代から証明してきた。修徳高1年のときに「まさか招集されると思っていなかった」U-16日本代表候補に初選出。元栃木SCの鈴木海音（現東京V）や植田啓太（現富山）らと切磋琢磨したが「周りのレベルが高すぎて『ここで自分はやっていけるのか』と思ったし、でも負けられないと」。大きな刺激が入り、それまでの視野を一つ上げさせられる出来事だった。その後加入した当時J1の徳島ヴォルティスでは「ディフェンダーだけでも宮代大聖君（現神戸）やジエゴ（現柏）ら今J1でプレーしている選手ばかりで相当レベルが高かった。正直、毎日練習に行くのが憂鬱で怖いときもあって……」。高卒の大森は圧倒的なプロの姿を見せつけられ、悶々とする時期を過ごしていた。
　好転するのは2022年夏にJ3の福島に移籍してからだ。ボランチやセンターバックとして十分に試合出場を重ねながら、ついに前進が始まった。今季は開幕からポジションを掴んで一度も放さない状況が続く。
　「今季もカップ戦では上のカテゴリーと戦う機会がある中、正直全然やれると感じる部分もあったし、大事なのは自分の心の持ちようだと思うんです。メンタル的に良くないといいプレーはできない」
　かつての大森ならばそうだったかもしれない。だが今は周りに臆することなく、もっとやれる、もっと圧倒的なパフォーマンスを――と焦がれる大森がいる。レギュラーを任され、勝つことの責任を背負い、実際に勝利を掴み取ることで心のタフさが日に日に増している。ヒリヒリとした昇格争いに身を置くプレッシャーはあるが、一つひとつクリアしていく過程に高揚感を覚え、また勝ちたいと強く思う。
　「これまで苦労してきた分、ようやく試合に出続けられている今が本当に大事だと思っていて、ここでもう一つ、結果を掴み取れれば、チームも個人も駆け上がれる。絶対にここで昇格したいんです」
　大森がその強い気持ちでチームを上へ引き上げる。
　
（文・鈴木康浩）