前節の９試合ぶりの敗戦について、矢野貴章は「勝ち続けるのは難しいし、どこかで負けることは想定していた」と冷静に振り返る。
　「大事なのは負けを引きずらないこと。それと、松本戦も北九州戦も僕らに隙があったと思う。『このくらいで勝てるんじゃないか』という気持ちの緩みのようなものがあり、それが失点に繋がったと僕は思っているので、この負けを受け入れて、ここでもう一度引き締めることが大事だと思っています」
　勝利を重ねるまでは愚直にやれていたものが、勝ち慣れてくるとだんだんと薄まってしまう。チームは生き物と言われるゆえんだ。
「（２試合前の）松本戦の失点シーンもCKのボールがファーサイドに流れたときに『大丈夫だろう』という感覚がベンチにいる僕にもあったんです。ピッチにいた選手たちもそう感じていたかもしれない」
　前節の北九州戦は前半の最後に失点。後半は必死になって相手ゴールに向かっていったが、それでは遅いと矢野は言葉を強める。
　「最後はやれていたと思いますが、それは追わないといけない展開だったからです。あれを初めからやれていれば、難しいゲームにはならなかったし、自分たちのペースで試合を進められたはず。今週のミーティングでも監督からその点が強調されていたし、もう同じミスはできません」
　今季の矢野はここまで23試合にすべて途中出場し、２得点をマーク。ビハインドの状況で投入されれば前節のように高さや強さで貢献し、リードしている状況で投入されればゲームを締めるために必要な振る舞いをする。試合展開や状況を踏まえ、冷静にタスクを遂行する様は、まさに“仕事人”だ。
　試合前にはピッチに出ていくスタメンを丹野研太や佐藤祥ら経験豊富な選手たちとともに盛り立てることも大事なタスクだと心得る。
　「みんなが思っていることを発信しているし、声を出さずに済むようならば出しません。いずれにせよ、チーム全体で戦うんだという方向に持っていくことが大事。試合に挑むのは20人ですが、試合に出る選手にはメンバーに選ばれた責任があり、それぞれが自分の役割をまっとうするだけです」
　残りは８試合。チームは７位につけ、上位を虎視眈々と狙う。チーム一丸で戦おうとする濃度はかなり濃くなってきたと矢野も認めるが、十分ではないとも付け加えた。
　「いけるという雰囲気はあっても、まだ７位です。ここから追い越していくためには、さらに強い気持ちを全員が出していかないとまくることはできないと思います。残り８試合というよりも、勝負はこの数試合では。ただ可能性はあるし、自分たち次第です。とにかく食らいつき、目の前の試合にすべてを懸けて戦っていくだけです」
　チーム最年長の矢野は、栃木SCにとって羅針盤のような存在であり続けている。今やるべきことを、どんな立場でも愚直にやり続け、背中で示す。それは残り８試合も変わらない。

（文・鈴木康浩）