「勝たないと終わると思っていたし、みんなも同じだと思う。もうトーナメントと同じです。その意味で、前節FC大阪戦の最後は１点を守り切る、栃木SCらしさが全面に出たと思う」
　必死。瀬戸際。だから楽しい。心地よい。
　「勝たないといけないギリギリの状況だからこそ、程よい緊張感があるし、いい戦いができるという考え方です」
　昇格できるかどうかの瀬戸際。ここでやれなければ終わる。それが今の原動力だ。
　プロルーキーイヤーだった昨季は青島太一ら同期と一緒に過ごす時間も長かったが、今季は違う。周りを見渡せば、年下が一気に増えた。「自分がやらなければいけない」という責任感に駆り立てられ、チームとして強くなりたいと思ったとき、結局は全員が繋がることが必要だと思い知った。
　「あの（栃木）シティ戦がきっかけです。3連敗して迎えたダービーで、ここで一つにならなければという危機感が半端なかった。そうしてシティに勝ち切り、なれ合いではない、引き締まった関係性ができていった。練習から厳しく言い合えるようになったし、今日の練習もうずくまる選手が何人も出るほど強度が高い。2試合前に首位の八戸と戦ったとき、彼らのプレスが凄まじかった。あれは日頃の練習から絶対にやっているんです。僕らもこれを継続していかないと」
　スタメンとして試合に出続ける日々が川名の基準を高くした。今季の開幕季はまだサブスタートだった。課題は変わらず守備だ。現代サッカーは攻撃も守備も兼務できることが必須条件。それらを理解し、地道に取り組みながら「攻守のバランスが良くなった」ことでスタメンの座を獲得。今では自分の背後のスペースを突かれても、相手より先回りして事なきを得るシーンがざらにある。
　ただ、それはそれ。ドリブラーとしての責任の果たし方は「攻撃の最後の部分」を研ぎ澄まし、得点に関わることに他ならない。小林伸二監督からは日々様々なアイディアを紹介され、自分の中に取り入れる試行錯誤が続く。これは永遠のテーマだ。
　「自分のドリブル突破が警戒されたとき、（棚橋）尭士との関係性をもう少しうまくできれば。ワンツーを使えばいいのかどうか。今節は5日間ほど準備する時間があるので細部を詰めていければ」
　昇格を掴み取るのは最後は気持ちだと想像する。何点獲ったか、何点アシストしたかは、関係ない。仲間同士で強く結び付き、勝ちたい熱さを身にまとい、全員で最後まで走り抜く。
　「カンセキで北九州に負けた直後、サポーターもしっかり後押ししてくれたし、今、諦めている人は誰もいないと思う。自分は気持ちをあまり出さないほうだけど、この土壇場、多分プレーに出ちゃうと思う。普段そういう姿を見せない選手が気持ちでプレーしていたら、自然と周りに伝搬すると思うから、やってやろうと思っています」
　川名がサイドをこじ開ける。全員の力でこじ開けにかかる。

（文・鈴木康浩）