いつキャリアに終わりが来ても――その覚悟はずっとあった。昨年、栃木SCがJ3に降格し、今年が個人的にも勝負のシーズンだと考えていた。決して思い描くようなシーズンにはならなかったが、勝つために試行錯誤しながら行動してきたことに心残りはない。そしてチームがJ2昇格の可能性を残す今、現役を終わりにする決断をした。
　21年に及ぶキャリアではC大阪や大分でJ1昇格を掴み、川崎ではJ1制覇のタイトルも手にした。だが引退を決めた今、一番に頭に去来するのはプロ3年目、当時まだ九州リーグに所属するV・ファーレン長崎に移籍した時期のことだ。
　元Jリーガーやアマチュアが混在し、各々が仕事をしながらも高いモチベーションで必死に這い上がろうとしていた。それが高卒でJ1の恵まれた環境に身を置いてきた丹野には衝撃だった。 　「サッカーの世界で生き残る厳しさを目の当たりにしたし、あのときの経験がその後20年もプロを続けられる糧になったんです。長崎にいたのは半年間だけですが、濃密でした。僕はプロで試合に出られるまですごく時間が掛かったけれど、厳しい現実を受け入れながら日々努力を続けてこられたのはあの時期があったからです。そして晩年になってようやく日の目を浴びることもできた」
　個人として生きる術、考え方、頑張り方を当時の選手たちに教えてもらった。それがプロとして生き抜くための財産になっていた。
　「ここまでやれたのは、自分が満足してしまう環境にいなかったことも大きいと思っています。常に上の存在がいて、追いかける目標があった。大分ではJ1で試合に出られたけれどボロボロになるまでにやられてしまい……。フロンターレでは『こんなすごい世界があるんだ』と自分が思っていても、周りはもっと上の世界を目指していた」
　もっと巧くなりたい、もっと強くなりたい、もっと試合に勝ちたい――栃木SCで過ごした2年間もその一心だった。昨季はリーグ戦36試合でゴールマウスを守ったが、やはり満足することはなかった。チームがうまく噛み合わない難しい時間が続く中、そして今季は第2GKの座に甘んじる中、勝つための試行錯誤と行動を重ね、自分で最高だと納得できる準備を貫いてきた自負はある。そこに一点の曇りもない。
　「スタメンで華やかに活躍するのではなく、地道にコツコツとやり続けることで、少しずつ出場時間を伸ばしながら、自分はここまでやって来られたんです。それが僕のサッカー人生でした」
　今週の練習にも誰よりも声を張り上げ、力強いセーブを繰り出し、そうやってチームを盛り立てて牽引する丹野がいた。丹野は変わらず最後までやり続けている。だからこそ掴めるものがあると信じて。
　「栃木はこういう厳しい状況を乗り越えた経験があるし、それが起こるのがサッカーの世界です。そこに向かってチームとしてクラブとして最後まで努力できたかどうか。それが問われているし、その姿勢が今後の個人やクラブに残るのだと思っています。これまでどおり、最後まで自分の全力を尽くせればと思っています」

（文・鈴木康浩）